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ワインの「脚(レッグ)」や「涙」とは何を意味するのですか?

簡潔な回答

グラスを回転させた後、内壁を伝って流れ落ちる粘性のある筋を「脚(レッグ)」または「涙(ラルム)」と呼ぶ。これはマランゴニ効果によるもので、水とアルコールの表面張力の差から生じる。主にアルコール度数と残糖量を示す指標であり、ワインの品質を示すものではない。

詳細な回答

「グラスを回した後に内壁を伝う筋」という視覚的現象は、ワインの魅力的な側面のひとつだが、その科学的理解は多くの愛好家の間で誤解されている。「脚が太ければ良いワイン」という信念は世界中に広まった典型的な神話であり、実際には品質とは直接関係がない。

グラスを回すとワインが内壁を覆う薄い膜を形成する。アルコール(沸点78.4℃)は水(沸点100℃)より速く蒸発するため、膜の表面でアルコールが揮発し局所的な表面張力の変化が生じる。水分リッチな液体が「引き上げられる」ように上昇し、やがて重力に負けて滴として流れ落ちる――これがマランゴニ効果(Marangoni effect)と呼ばれる物理現象だ。イタリアの物理学者カルロ・マランゴニが1865年に記述した。

アルコール度数14.5%のワインは、11.5%のワインに比べて太く、遅く、数の多い脚を示す。同様に、残糖量の多い貴腐ワイン(ソーテルヌ、トカイ・アスー)は糖分濃度が液体を重くするため、特に印象的な脚を形成する。トロッケンベーレンアウスレーゼでは残糖が200g/lを超えることもある。グリセロール含量の高いワイン(発酵の副産物として3〜15g/l)もより粘性の高い脚を示す。

さらに興味深い点として、グラスの清潔さも脚に影響する。洗浄剤の残留物がある場合、脚のパターンが乱れる。プロの試飲用グラスが純水でリンスされ、布巾を使わず乾燥させる理由もここにある。グラスの形状(傾きの角度、内壁の粗さ)も脚の形成に関与する。

日本でワインが広く飲まれるようになった1980年代以降、「脚が太い=良いワイン」という誤解が消費者の間で定着した。しかし本当の品質評価は、アロマの複雑さと口中での構造にある。脚は美しい参考指標に過ぎず、鼻と口が最終的な審判者である。実際、軽くて精緻な白ワイン(シャブリの辛口リースリングなど)の脚は細く短いかもしれないが、その品質は脚が太い低品質な甘口ワインをはるかに凌駕する。物事の本質は外見では測れない、という東洋的な知恵がワインにも当てはまる。

ワインの物理的性質に関連したもう一つの興味深い現象として「ワインのウィスパー(whisper)」がある。注いだばかりの赤ワインが呼吸するような微細な音を立てることがあるが、これはCO₂の微量な脱出と揮発性化合物の蒸発に起因する。感覚を研ぎ澄ませたソムリエは、この微かな音さえも観察の対象にする。日本の茶道における「松風の音」(釜の湯が沸く音を松に吹く風に喩える)のように、微細な感覚的現象が全体の体験を豊かにする。脚の観察は一種の「速読」だ。グラスを片手で持ち、素早く回転させて数秒で判断するソムリエの所作は、茶の湯における点前(てまえ)と同様、見る人に静謐な美しさと専門的な確信を伝える。ワインサービスの儀式的な側面は、単なる技術の展示ではなく、ゲストへの敬意を形にした文化的表現だ。

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