なぜグラスの中でワインを回すのですか?
簡潔な回答
グラスを回転させることで、ワインと空気の接触面積が増加し、酸化と揮発性アロマ成分の放出が促進される。この単純な動作で、嗅覚で感知されるアロマの強度が2〜3倍に増加することがある。ボルドーのISSV(ヴィーニュとヴァンの科学研究所)の研究では、接触面積が5〜10倍に増加するとされている。
詳細な回答
「グラスを回す」という行為は、テイスティングにおける最も基礎的な技法のひとつでありながら、その科学的メカニズムを理解している人は少ない。この行為はワインに対する積極的な対話であり、閉じたアロマを引き出すための鍵だ。ボルドーのISSV(ヴィーニュとヴァンの科学研究所)の研究では、グラスを回転させることで空気との接触面積が5〜10倍に増加するとされている。
グラスを回転させると、ワインが薄い膜として壁面に広がり、空気との接触面積が劇的に拡大する。この酸化促進には2つの主要な効果がある。第一に、揮発性化合物――エステル・テルペン・チオール・アルデヒドなど「ブーケ」を構成する物質――の蒸発が促進される。最初のノーズでは閉じているように見えたワインが、数回の回転後に豊かな香りのパレットを披露することがある。特に長期瓶内熟成した高級ワインでは、最初のノーズと数分後のノーズが全く別のワインのように感じられることも珍しくない。
第二の効果は、還元的化合物の変換だ。還元的なノーズ――卵臭・マッチ・ゴム――はワインが還元的環境(スクリューキャップやシュールリー熟成)で育った時によく見られる。これは硫黄化合物(主に硫化水素H₂S、メルカプタン類)が原因で、空気に触れることで速やかに酸化・消散する。多くの場合、還元臭のあるワインも開くと素晴らしいアロマを持つことがある。
テクニックとして、グラスをテーブルに置いたまま回すと安定しやすい(あるいは脚を持って回す)。3〜5秒の滑らかな円運動が理想的。グラスは最大三分の一までしか注がないことが重要で、アロマのための「空間」を確保する。また、回し方の強さもアロマ解放の程度に影響する。軽く小さな円を描くか、大きくダイナミックに回すかで出てくるアロマの量が変わる。
注意点として、非常に古いワイン(20年以上)やシャンパーニュは慎重に扱うべきだ。脆弱で古いワインは過度の空気接触で残存アロマを失う「落ちる」現象を起こすことがある。泡性ワインでは回転が泡を消散させ、泡立ちを損なう。シャンパーニュのグラスは静置したまま香りが自然に漂い上がるのを待つのが礼儀でもある。繊細なものには繊細な扱いを――これはワインにも、他の多くのことにも言える原則だ。
グラスの素材も重要な変数だ。鉛クリスタルガラスは屈折率が高く輝きを増すが、環境・健康規制から現代では鉛フリークリスタルに移行している。厚みが薄いほど唇への感触が繊細で、ワインの温度変化も穏やかだ。ザルトやリーデルなどのトップブランドは品種ごとに最適化されたグラスを設計しており、同じワインでもグラスによって香りの開き方が劇的に異なることが実験的に証明されている。道具への投資が体験の質を変える、というのは茶道の「道具」への考え方と同じ哲学だ。プロフェッショナルな利き酒コンテストでは、テイスターは10〜20本のワインを3〜4時間で評価することを求められる。嗅覚疲労を防ぐために鼻の下に自分の皮膚(手首の内側)の匂いを嗅ぐ「リセット」技法や、コーヒー豆の使用(ただしこれは科学的に疑問視されている)など、感覚を維持するための個人的戦略がある。